東京高等裁判所 昭和44年(ツ)17号 判決
建物の賃貸人が賃借人に対して提起する修繕義務不存在確認請求の訴の請求原因としては、先ず、民法六〇六条の規定する修繕義務の全部または一部が、当事者の合意等によつて当初から発生しなかつたこともしくは事後に消滅したことが主張さるべきものと考えられる。そうして、修繕義務の全部の不存在確認請求(上告人のいう一般的修繕義務不存在確認請求)の場合は、目的物の破損の大小、修繕費用の多寡は、請求原因として主張される必要がないのに対し、特定範囲、特定費用の修繕義務の不存在確認請求(上告人のいう具体的修繕義務不存在確認請求)という訴を想定すると、その場合は右の諸事項もまた、賃貸借の条件に関する合意の内容とともに主張されることを要するのである。従つて、等しく修繕義務不存在確認請求といつても、両者の請求原因の内容は異なることが明らかである。上告人は、両請求は全部請求と一部請求との関係にあると主張するもののようであるが、たしかに、前者(一切の修繕義務)が存在しないときは後者(特定の修繕義務)も存在しないことになる点に着眼すれば、後者の不存在確認請求は前者の不存在確認請求の一部請求であるように見えるけれども、それは論理上或いは既判力の効果としての結論に過ぎないのであつて、元来二箇の請求が全部一部の関係にあるといい得る場合すなわち裁判所が一部認容の判決を下し得る場合というのは、例えば金銭債務に関する請求のように、一定の請求原因事実のもとで、請求の分量上の一部を認容し得る場合でなければならないのでる。しかるに右述両者の各不存在確認の訴の請求原因は、上叙のとおり同一でないのであるから、両請求が全部一部の関係にあるということはできない。そうして、上告人が原審で具体的修繕義務不存在確認の請求も、その請求原因事実の主張も、なんらしていないことは記録によつて明らかであり、原審が上告人に釈明権を行使してその請求をさせる義務を負わないことも明白であるから、原審の措置は正当といわなければならない。
(近藤 田嶋 吉江)